≪2025.4.22掲載≫
アジア国際法学会日本協会
「ビジネスと人権」連続研究会 第2回
気候変動と人権–アジアにおける「清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利」の意義
アジアは気候変動の影響による災害の影響を特に受けている地域であり、気候変動は、生命、健康、食糧、住居といった基本的人権に対する大きな脅威となっています。近年、気候変動と人権の関連性に対する注目が世界的に高まっています。その代表的な例として、国連総会で2022年に「清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利」に関する決議が採択されたことが挙げられ、国家や企業を含むステークホルダーの気候変動への取り組みが今後益々重要となります。
また、アジア地域を含む世界各地では、近年、気候変動に関連する様々な人権侵害に対する国家や企業の責任追求と救済・是正を求める訴訟等が増えています。欧州の事例が注目されることが多いものの、アジア地域でも様々な事例があります。気候変動と人権に関わる訴訟等は、国家や企業の気候変動への取り組みに大きな影響を与え得るものです。
本研究会では、気候変動と人権に関する国際的な動向や関連する訴訟等の動向を学ぶとともに、ビジネスと人権の視点から気候変動に伴う人権の問題とそれに対する国家と企業の責任を検討します。
日時 2025年5月19日(月曜日)18時00分~19時30分
開催方式 Hybrid 方式(会場参加またはZoomによるオンライン参加)
会場 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業東京事務所
〒100-8124 東京都千代田区大手町1-1-2 大手門タワー
※東京メトロ 千代田線・半蔵門線・東西線・丸ノ内線、都営地下鉄三田線大手町駅 C6a出口より地下通路にて直結、C10出口より徒歩1分
JR東京駅 丸の内北口より徒歩8分
司会 髙田俊亮氏(あさひ法律事務所、弁護士(日本及びNY州))
報告者 高村ゆかり氏(東京大学 未来ビジョン研究センター 教授)
金昌浩氏(FILE財団アジア担当職員、弁護士(日本及びNY州))
≪2025.5.26掲載≫
開催報告(第2回)
本研究会では、髙村氏より気候変動分野における国際人権法の発展や気候関連の情報開示の動向、金氏より韓国やインドネシアにおける気候変動訴訟や環境分野の法律家団体、日本の気候変動訴訟の特徴などについてそれぞれご報告いただきました。
髙村氏からは、「気候変動と人権法の交錯」として、気候変動分野に関する国連人権理事会における動向に加えて、気候変動に関する自由権規約委員会の個人通報事件(気候変動の影響を理由とする難民認定申請に関する事案)やヨーロッパ人権裁判所の判決(高齢女性らによるスイス政府の気候変動対策に関する事案)が紹介されました。また、非拘束的な規律が中心でありながら開示といった気候変動に関する企業の様々な取組みが進んでいること、日本でも近時SSBJ(サステナビリティ開示基準)が公表され、今後、開示が義務化されることなどが述べられました。
次に、金氏からは、アジア地域での気候変動に関する法的アクションとして、韓国やインドネシアの事例を紹介いただきました。具体的には、韓国では、国や企業に対して様々な観点から気候変動訴訟が提起され2024年にはカーボンニュートラル枠組み法が違憲との判決が出たこと、インドネシアの気候変動訴訟の例として石炭発電所の設置許可を取り消す判決が出たこと、両国とも弁護士が所属する環境団体が複数あること等が紹介されました。また、日本では、気候変動訴訟の件数が少なく、気候変動の分野に専門的に関わる弁護士数の増加が重要であると問題提起されました。
質疑応答では、気候変動訴訟が温室効果ガス削減に果たす意義、気候変動対策のための現在よりも大規模なコレクティブアクションの可能性、企業を拘束する条約の実現可能性、気候変動分野における日本の弁護士の取組みを高めるための手段などに関して参加者と報告者との間で充実したやり取りが行われました。
補足:なお、当日、参加していた大谷美紀子弁護士(元国連子どもの権利委員会委員長)より、本研究会終了後に、同委員会の一般的意見26(2023年)、特に気候変動に焦点をあてた子どもの権利と環境、および、気候変動に関する個人通報事件に関する決定(2019年通報、2021年決定)を、関連資料として提供を受けましたので、合わせてご紹介します。
一般的意見26(CRC/C/GC/26)
個人通報事件に関する決定
*当日の資料は会員限定情報のページに掲載されております。