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「ビジネスと人権」連続研究会<第1回>

≪2024.12.2掲載≫


アジア国際法学会日本協会 
「ビジネスと人権」連続研究会 第1回
 
ASEAN におけるビジネスと人権の施策
 

 
 
アジア、特にASEAN地域では近年、ビジネスと人権に関する施策が各国レベル、またASEAN、特にAICHR(ASEAN政府間人権委員会)において積極的に議論されています。一方で、2023年のJETRO調査によると、アジアにおいて人権を重要な経営課題と認識する日本企業の割合は8割と比較的高いものの、人権デュー・ディリジェンスの実施割合は3割と、企業のさらなる積極的な取り組みが期待され、また地域間の協働に基づく施策が果たす役割が重要と言えます。
 
NAPに関する取組みは進む一方で、現状を見ればASEANは、クーデターに伴い企業活動を行う上で国際人道法上の観点も含め、特別の考慮を要するミャンマーや、カンボジア、フィリピンなど市民社会スペースの縮小が懸念される国、マレーシアやインドネシアなどパーム油や木材など森林破壊をはじめとする環境に関する課題と人権との関わりが指摘される国など、ビジネスと人権に関する多様な課題が浮き彫りになっています。
 
本研究会では、ASEANの最新の議論を学ぶと共に、ASEANとサプライチェーン上、国際協力、事業・投資活動等において、密接に関わる日本の役割、そして企業の取組み促進に向けた施策を議論します。

 

日時   2025年1月23日(木曜日)18時00分~19時30分
 
開催方式 Hybrid 方式(会場参加またはZoomによるオンライン参加)

※本研究会は英語で行われます。
 
会場   大江橋法律事務所東京事務所

〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル2階 TEL:03-5224-5566(代表) FAX:03-5224-5565
 
司会   佐藤暁子氏(ことのは総合法律事務所 弁護士)
   
報告者  Edmund Bon氏(ASEAN Intergovernmental Commission on Human Rights (AICHR)マレーシア政府代表・弁護士)
     山田美和 氏(ジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター 上席主任調査研究員)
 


≪2025.4.17掲載≫
 


開催報告

 
 
ビジネスと人権連続研究会第1回では、まずBon氏より、AICHR(ASEAN政府間人権委員会)及びマレーシアにおけるビジネスと人権に関する現状と施策、山田氏からはG7を含む国連ビジネスと人権に関する指導原則(指導原則)の実現に向けたグローバルレベルでのビジネスと人権の施策の発展及び日本政府の取組みなどについて発表いただきました。
 
Bon氏からは、「ESG」については関心が高まる一方で、パスポートの取上げや債務労働による強制労働といった深刻な人権侵害の予防・救済のための企業の取組みはまだ十分ではないこと、課題は農業・自動車・建設分野など多岐にわたることが指摘されました。さらに、タイ、インドネシア、ベトナムに続き、国別行動計画(NAP)の策定を目指すマレーシアにおいては、先日ベースラインスタディ(現状把握調査)が公表され、義務的人権デュー・ディリジェンス法の必要性を含む包括的な政策が議論されています。また、AICHRとしても、ビジネスと人権に関する戦略に基づき、地域共通の重要課題として引き続き推進していく意向が示されました。
 
続いて、山田氏からは、指導原則が各国のガバナンスギャップを埋めることを目的として策定されたことが改めて確認されました。国連理事会で承認された2011年以降、指導原則の各分野への政策統合に関する概要、NAPの策定を通じたアジア各国の取り組み、さらに日本政府が2020年に公表したNAPおよび2022年に策定した責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドラインについて説明されました。そして、法律とそれ以外の施策を組み合わせた実効性のある取り組みを指す「スマートミックス」によって、ASEANおよび日本における責任ある企業行動をどのように促進できるかという重要なテーマも提示されました。
 
その後の質疑応答では、人権リスクに対する企業の効果的な取り組みや、欧州を中心に進展している人権リスクに関する企業の情報開示の実効性、労働組合の役割といった多様な観点から議論が深まりました。実際に影響を受けるステークホルダーとの継続的かつ意義のあるエンゲージメントや、グリーバンスメカニズム(対話・救済メカニズム)の重要性、さらに中小企業への実効性のある施策や人権デュー・ディリジェンスに関する契約条項がもたらしうる負の影響など、アジアにおけるビジネスと人権の実践を通じた持続可能な社会の実現に向けて引き続き議論すべき多くの論点が提起されました。
 
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